2017-12-30

スティーブン・ジェラード: 監督業は想像以上


5ヶ月間悩んだ末、LAギャラクシーの延長オファーを断り19年の現役キャリアに終止符を打ち、コーチの道へ進むことを決めたスティーブン・ジェラード(37)。プレーキャリアは終わったが、サッカーに対する情熱は変わっていない。今夏リバプールのU-18チームの監督に就任し、ユルゲン・クロップの下コーチングを学んでいる。『リバプールのファーストチーム監督』の夢に向けて歩み始めたばかりだが、その苦労は想像以上だったようだ。

「本当に大変さは実感してるよ。この半年で2歳は老けたね。戻ってきたときにユルゲンにアドバイスされた。『シャドーイングは短期間でいい。そのあとはミスを繰り返し、チームを選び、戦術を決めたりするのに何年も費やすことになる。そこで自分の哲学、プレースタイルを見つけ、選手たちとの問題解決をし、個々を褒め、手助けをし、失望や挫折を味わう。それすべて経験してこそこの仕事が自分のやりたいことなのかどうかがわかる。』って。」

「この5ヶ月間で、いいこと、悪いこと、監督たちが日々経験していることを自分ですべて経験した。ユースレベルでだけどね。この経験は将来のための備えになってるし、この経験で監督業が怖いとかもうやりたくないなんてことにはなっていない。この先へ行けばもっと注目を浴びて、意見され、批判され、賞賛されることになる。それは理解しているから、クレイジーな世間の注目を浴びずに裏でこの経験することは今の俺にとってすごく大切なことだと思ってる。」



現在アカデミーで週6日選手育成に励み、現役時代以上にチームのことを考える生活になっている。

「まずは仕事に対する意欲は自分がしっかりみせて、皆の信頼を得なくてはいけない。各選手、そしてチームを成長させたいと思ってやってるんだってことを示さないといけない。週2〜3日だけ顔を出して、あと3日は姿を見せないようじゃ信頼してもらえないし、彼らが俺に全力を尽くしてくれなくなる。信頼を得るためには時間を費やさないといけない。」

「選手だった時は試合が終わればスイッチを切ることができたけど、コーチの立場では全然違う。それが選手とコーチの一番大きな違いだ。今は試合が終わると、何が良かったか、何が悪かったか、今週はどの選手のどこを指導すべきか、誰を褒めようか、誰と話をしようかって、学校で行儀良くしてるかってあらゆることを考えなくてはいけないというのは選手だった頃と全然違う。俺は学校で優等生だったってわけじゃなかったけど、今はフィル・ロスコーが教育・福祉の面で大いに助けてくれているんだ。本当に彼がいなかったら俺は途方に暮れてたと思う。それくらい彼には助けられてるよ。」

「選手のときには想像していなかったようなことがいっぱいあって。現役時代からお世話になったコーチや監督らには常に敬意を持っていたけど、今はそれ以上だ。監督はここまでいろんなことをやってくれていたんだって自分がその立場になって初めて実感した。」

U-19を引率しUEFAユースリーグに出場中。チームの選手たちが試合中人種差別を受けるという苦い経験も味わった。

「プレーしていた頃チームメイトがそういう被害にあったことがあったけど、自分がその選手の監督となればまた違って、新たな学びの経験になってる。選手たちを大事に思っているし、彼らは俺のチームで、俺のクラブでプレーしている。チームをサポートしなくてはいけないし、俺はそうするよ。」


クラブ史上最も偉大な選手として名を残すジェラードだが、自分のチームに自らの伝説を語ることは全くしない。選手ではなく監督スティーブン・ジェラードである。

「プレシーズンの時の選手たちはまだ俺を選手としてみていたようだ。みんなシャイで静かで。でも今はみんなその殻を脱いでる。俺が真剣にコーチをやってるってわかってくれるようになって、とても気持ちよく会話ができるようになった。」

「自分の現役時代のことは話題に出さないし、自分の映像を見せることもしない。戦術的な映像を選手たちにみせたい時には現ファーストチームやほかのクラブの今のファーストチームの映像を必ず使うようにしている。『俺の現役の映像をみてみろ。』なんていうのはいい指導だとは思えない。自分の経験から明らかに良かったことや悪かったことでチーム指導に役立つと思うことなら隠さず言うよ。でも『俺の活躍をみてみろ。俺のチームはこんなことをやってのけたんだ』なんていうのはおかしい。俺のプレーキャリアは終わった。大事なのは過去じゃなく未来だ。」

現在U-18プレミアリーグでリーグ首位。UEFAユースリーグベスト16、21試合で負けは1度のみとチームは絶好調。だが現実の厳しさを誰より知るジェラード監督、甘い賞賛をしたりはしない。

「クリスマスにあげるのは背中をポンっと叩いてやることくらいさ。俺は『成長が何より大事で結果はどうでもいい』っていうアカデミーコーチじゃない。選手たちには勝つことを教えなければいけない。勝つためにどうすればよいのか、そしてこのクラブの勝利のメンタリティや姿勢を身につけさせる。18歳になってから、『さあこれからは勝利がすべてだ』なんて7〜17歳まで知らなかったことを急にさせられない。勝利がすべてなんだけど、今の俺にリーグ優勝か2人の選手がファーストチームに昇格するのかどちらを取るかといわれたら、選手の昇格をとるよ。本当にそれくらいどっちも欲しいんだ。」

先日のマンチェスター・ユナイテッドとのダービーは2−2の引き分け。キャプテンのアダム・ルイスが退場、終了間際に同点弾を許した。ジェラード監督はどう対処したのか。

「20分からのパフォーマンスは試合後に褒めた。ハーフタイムの時点ですでに最初20分の不調を叱ってたからね。退場や交代は関係なく、チームの姿勢とメンタリティがダメだったんだ。試合前にピッチに出た時グラウンドは雪に覆われていて、選手たちは試合に勝つことよりピッチコンディションにばかり気を取られていた。それについてハーフタイムに叱ったら、そのあとにはリアクションがあった。試合後は褒めだけ。選手たちはそれだけの努力をしたからね。」

「退場については怒ったりしなかった。彼自身チームメイトをがっかりさせたのはもうわかっているし、彼はキャプテンだからそこはよくわかってる。チームの規律については試合前に必ず指導しているから、アダムは自分がミスを犯したというのは誰に言われなくてもわかってるさ。こういう状況では選手をチームの前で叱るより、沈黙が一番の治療になることがある。それが厳しいお仕置きとなるんだ。自分もそういう状況を経験しているからわかる。退場処分を受けたときには監督に何も言われないより一喝入れてもらったほうが楽なのにって思っていた。次回チームには入れるのかなって不安になったりしてね。」

「時には自分やスタッフが与えた情報や戦術が間違ってなかったかどうかって見る必要もある。選手たちはそれに基づいてトライしてるわけで。それを選手たちが間違って実行してしまうこともあるけど、彼らはベストを尽くしている。誰も故意にミスをしたりはしない。物を投げたり、殴ったりして選手人生を終わらせるようなことはしたくないし、特に相手が16歳17歳だと尚更さ。俺はチームの前で個々を大声で叱ったり、軽蔑したりしない。前半のプレーが良くなければハーフタイムにチームに強気で指導はする。いいプレーをしていなかったり、試合に対する姿勢に問題があれば個人的に話をしてストレートに正直に伝えるよ。けなしたりすれば選手をダメにしてしまう。」

闘争心の激しかった負けず嫌いの現役時代のジェラードは今も健在か。

「選手たちの前では感情は隠さなければいけないことがある。でも同時に感情が全くない監督にはなりたくないんだ。チームキャプテンに任命されたのはそういう感情がコントロールできる自分がいたからだと思う。その強みは今もコーチとして強みになってる。キャプテンとコーチは全然違うよ。今は25人の25のエゴを管理しないといけない。全員がプレーしたくて、次のコウチーニョ、フィルミーノ、マネ、サラになりたいって思ってるわけだから。それはコーチになってすぐ学んだ。」

「本当に多くを学んでいる。叫ぶべきことでないことを叫んだり、審判に言うべきことでないことを言ったり、選手たちにもいうべきでないことを言ってしまったりね。本当にたくさんミスをしてる。この前の試合でもミスをしたよ。自分のせいでポイントを落とすところだった。だからこそここでやってるんだ。今俺がミスをしたって言うまで気づかなかったろ?新聞やSNSで叩かれることなくミスをして学ぶことができてる。」

自らもアカデミー卒業生であるジェラード。現在のアカデミー生にとってプレミアリーグのファーストチームでの活躍はさらに難しくなっている。

「今のクラブは以前よりお金持ちで大金を支払って選手を買うようになってる。10年、15年前はある程度の実力があればファーストチームに入ることはできていた。でも今は相当優秀でない限り生き残れない。ブリュースターやフォーデン、ソランケのような今控えの選手たちは優秀だけどさらに上のレベルに達し、ファーストチームで活躍できるのか、さらにそこで残れるのか。俺の頃よりスタンダードはかなり上がってる。」


自分の選んだ道に満足しているジェラード。今シーズン終了後には次のステップについて新たなオプションを探ることになるかもしれない。

「半年やったから次のインタビュー頼むよなんて考えてはいないよ。でもどんなチャンスであれ半年後、1年後、2年後にはシーズン前より準備はできている。例えば現役引退直後にオファーがあったMKドンズの監督のポジション。びっくりしたし、あの時の俺はチームやクラブをリードする準備なんて全くできていなかった。でも今はあの頃より準備はできている。でも今のポジションですごく満足しているよ。」

「自分は分別ある選択をしたと思う。チャンピオンシップだけじゃなくほかのリーグからも監督としてオファーがあった。惹かれたけど、長い目で自分の目標を考えた時にこれが自分にとって最良の選択だった。すごく面白いし楽しんでる。クラブに戻ってくることができて嬉しいし、いい環境だ。現役からコーチングへの道のシフトは今のところ完璧さ。」

「あの時にファーストチームの監督になってたら、5〜6試合後に解雇されてたかもしれない。それが原因で監督という仕事は一生したくなくなってたかもしれない。それか最初の監督業でリーグ優勝し、その後のキャリア10年、20年後に繋がってたかもね。未来はわからない。自分にできることは今後の自分の役目のためできるだけの準備をすること。1年後には3つのオファーがきて、もしかしたらそれはリバプールでじゃないかもしれない。『リバプールFCでしか働かない』なんて今から言ってられない。もちろん理想はみんなご存知の通りリバプールにいることだけどね。今はまだ先のことは考えてないよ。」

フィジカルなチームを育てたいと意気込むジェラードは、伝統的なプレースタイル、戦術に囚われることなく実に様々なフォーメーションを使用。就任当初はコーチング経験不足に懸念の声があったが、その真摯な姿勢と情熱、マンマネージメントに周囲スタッフからは賞賛の声が絶えない。

Source: The Guardian, Liverpool Echo

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ブログ書いてくれてありがとう♡

Machilda さんのコメント...

待ってました!

匿名 さんのコメント...

翻訳ありがとう!

まーぼ さんのコメント...

スティービーの知性が伝わってからインタビューでした。ゆかさん、ありがとうござあますれ